内視鏡医は、自分の大腸カメラをどこで受けるのか ― 決まっていません

医師のリアル・働き方

内視鏡医は、自分の大腸カメラをどこで受けるのか ― 決まっていません

大腸カメラは、僕の仕事の中心にあるものの一つです。

これまでにかなりの件数を担当してきましたし、このブログでも、大腸カメラ前日の食事や、ポリープを切除したあとの生活について書いてきました。

そんな僕自身は、まだ一度も大腸カメラを受けたことがありません。

意外に思われるかもしれません。

でも、理由はけっこうはっきりしています。

そもそも、今の僕が受けるべきなのか

大腸カメラを受けるかどうかを考えるとき、僕がまず考えるのは、

「今の自分に、そもそも病気がありそうなのか」

ということです。

医療では、検査をする前の段階で、その人に病気がある可能性がどれくらいあるのかを考えます。

専門用語では「検査前確率」と言います。

年齢、症状、家族歴、これまでの病歴などによって、その確率は変わります。

大腸がんは若い人にも起こり得ますが、年齢によってリスクはかなり違います。

そして、日本の大腸がん検診として現在勧められているのは、40歳以上を対象とした便潜血検査です。

一方で、症状のない人全員に最初から大腸カメラをすることが、国の対策型検診として勧められているわけではありません。

なので、少なくとも今の僕は、

「症状がない30代の今、健診目的で大腸カメラまで受ける必然性は高くない」

と考えています。

もちろん、これは30代なら大腸カメラを受けなくていい、という意味ではありません。

症状や家族歴、既往歴などによって話は変わります。

あくまで、今の僕自身についての判断です。

ただし、これは統計の話です

ここからが、少しややこしいところです。

今の話は、集団として見たときの医学的な確率の話です。

でも、人は確率やエビデンスだけで行動するわけではありません。

仮に、ある病気になる人が100人に1人しかいなかったとしても、

自分がその1人ではないとは誰にも言えません。

そして、

「可能性は低くても、自分に病気がないことを確認して安心したい」

「今の時点で病気がある可能性をかなり下げられる検査があるなら、調べておきたい」

と思う人もいます。

医学的に全員へ検査を勧めるべき、という意味ではありません。

検査には時間も費用もかかりますし、負担や偶発症もあります。

それでも、その人自身が不確実性を減らすことに大きな価値を感じていて、検査の負担やリスクも理解したうえで選ぶのであれば、その人にとっては十分に合理的な選択だと思います。

ここでいう「合理的」は、医学的に推奨されているという意味ではありません。

患者さん本人の価値観まで含めたときに、その行動にはその人なりの理由がある、という意味です。

安心したい。

後悔したくない。

調べられるなら調べておきたい。

そういう感情も、人が医療を選ぶときの行動原理の一つです。

僕は、それを無視して医療を考えることはできないと思っています。

実際、患者さんを診ていると、このあたりの考え方はかなり分かれる印象があります。

毎年人間ドックを受けて、自分に起こりやすい病気や、どの検査を受けたほうがいいのかまでよく調べている方がいます。

会社から受診するように言われていたり、補助が出ていたりと事情はいろいろですが、かなり熱心です。

正直、

「そこまで検査しなくてもいいのでは」

と思うこともあります笑

一方で、ほとんど健診を受けない方もいます。

なぜそれが分かるかというと、かなり病気が進んでから初めて医療機関に来られる方を、実際に診ることがあるからです。

経緯を聞くと、

「何年も健診を受けていなかった」

「精密検査を勧められていたけれど、そのままにしていた」

ということもあります。

もちろん、その間にいる方もたくさんいます。

ただ両端が目につきやすいという意味では、大きく二つに分かれる印象があります。

その中で僕自身は、

一般的に推奨されている方法を基本にする

くらいが、自分には合っているかなと思っています。

僕はどうするか

ということで、僕は40歳になったら便潜血検査を受けようと思っています。

現在、日本の大腸がん検診では、40歳以上を対象に年1回の便潜血検査が行われています。

そして、便潜血検査で要精密検査になれば、大腸カメラを受けます。

つまり今の僕にとっては、

「便潜血で引っかかったとき」

が、大腸カメラを受ける一つの明確な基準です。

もちろん、その前でも症状などがあれば話は別です。

検査にかかる時間や労力も、僕にとっては判断材料です。

前日から食事に気をつけて、下剤を飲んで、検査を受ける。

場合によっては、その日かなりの時間を使います。

必要性が高ければ、もちろん受けます。

でも、病気が見つかる可能性がまだ低い段階で、そこまでのコストを払うか。

今はそのバランスで考えています。

では、受けるとなったらどこで受けるのか

ここからが、今回いちばん書きたいところです。

「必要になったら受けます」

と書きました。

では、本当に必要になったとき、どこで受けるのか。

実は、

決まっていません笑

考えてみると、ここには大きく二つのハードルがあります。

一つ目は、通いやすさです

これはかなり重要だと思っています。

病院まで何時間もかかる。

予約が取りづらい。

検査まで何度も通わなければならない。

こうなると、特に仕事をしている人にはかなり大変です。

医療機関によっては診療時間が平日日中中心ですし、仕事を休むとなれば職場との調整も必要です。

僕自身も、急に仕事を休むのはかなり厳しいです笑

だから、

家や職場から近い。

休みの日に受診できる。

予約が取りやすい。

通院回数が少なくて済む。

こういった条件は、医学とは直接関係ないようで、実際に検査を受けるかどうかにはかなり影響すると思います。

患者さんに検査を勧める側にいると、つい、

「必要だから受けてください」

という話に目が行きます。

でも、受ける側にはその前に、

そこへ行けるか

という問題があります。

二つ目は、信頼できるかどうかです

こちらは、さらに難しいです。

どれだけ通いやすくても、

「ここで自分の体を預けて大丈夫かな」

という気持ちは僕にもあります。

そして正直に書くと、

医師である僕でも、初めて行く医療機関のホームページを見ただけでは、ほとんど分かりません笑

同じ業界なので、知り合いや昔の同僚から話を聞いていれば多少の情報はあります。

でも、そうでなければ患者さんと大きく変わりません。

僕が患者として受診するなら、

なぜこの検査が必要なのかを説明してくれる。

メリットだけでなく、不利益も説明してくれる。

こちらの質問にきちんと答えてくれる。

必要のない検査まで無理に勧めない。

そんなところを大事にしたいと思います。

ただ、

それを初診前にどうやって知るのか。

これが難しいです。

内視鏡になると、さらに分からない

内視鏡は手技です。

同じ資格を持っていても、経験や技術、観察の進め方にはどうしても個人差があります。

経験件数がすべてではありません。

長くやっていれば必ず上手というわけでもないと思います。

ただ、始めて間もない人と長く経験してきた人では、経験している場面の数が違うのも事実です。

自分が受けるなら、やっぱり丁寧さや正確さは気になります笑

とはいえ、それもホームページではなかなか分かりません。

専門医資格や経歴、経験件数などは確認できます。

でも、それだけで、

「この人なら安心」

と判断できるわけでもありません。

自分が普段やっている検査なのに、いざ患者側に回ると意外と選べないものだなと思います。

昔の同僚に頼むという手はあります

一つだけ、心理的なハードルがかなり下がる選択肢があります。

昔、一緒に働いていた消化器内科の先生にお願いすることです。

同じ職場で働いたことがあるので、少なくともどういう人かは分かります。

医師と患者として信頼関係を作ってきたわけではありませんが、完全なゼロスタートではありません。

これはかなり大きいです。

ただ、今度は距離の問題が出てきます。

病院ですし、通うには遠い。

そうすると一つ目の「アクセス」の問題に戻ります笑

信頼を取るか。

通いやすさを取るか。

結局、今のところどこで受けるかは決まっていません。

関係者の僕で、これです

ここまで考えていて、改めて思いました。

僕は医療業界の中にいます。

大腸カメラがどういう検査かも知っています。

どういう場面で必要なのかも、何が起こり得るのかも、一般の方よりは分かっています。

知り合いの消化器内科医もいます。

それでも、

自分がどこで検査を受けるかは、簡単には決められません。

関係者の僕でこれですから、医療関係者ではない患者さんにとっては、もっとハードルが高いと思います。

以前、「誰のための、何のための医療なのか」という記事で、選択肢が多いことと、信頼が積み上がることは必ずしも同じではない、という話を書きました。

今回、自分を患者側に置いて考えてみると、少し違う角度から同じ問題が見えました。

都市部には医療機関がたくさんあります。

選べること自体は、もちろん良いことです。

でも、

何を基準に選べばいいのか。

その材料は、思っているほど多くありません。

だからこそ、実際に診療を受ける中で医療者と患者さんのあいだに信頼が積み上がることには、やっぱり意味があるのだと思います。

知らない人に自分の体を預けることには抵抗があります。

医師である僕にもあります。

受けたほうがいい人には、強く勧めます

ここは誤解のないように書いておきたいです。

僕自身が今、大腸カメラを受けていないからといって、

「大腸カメラはなるべく受けないほうがいい」

と言いたいわけではありません。

必要性が低い人には、僕は無理には勧めません。

前処置の負担もありますし、検査そのものにも小さいながらリスクがあるからです。

大腸カメラ前日の食事

一方で、便潜血検査で要精密検査になった方には、大腸カメラを含む適切な精密検査を受けるよう強く勧めます。

便潜血をもう一度やって陰性なら大丈夫、というものではありません。

また、原因のはっきりしない鉄欠乏性貧血や血便、最近出てきた便通の変化などがあれば、そもそも「健診」の話ではなく、診療として原因を調べる必要があります。

そこでは前提が変わります。

もし大腸がんがあれば、時間とともに進行する可能性があります。

早い段階なら内視鏡治療の対象になるものでも、進行度によっては外科手術や薬物療法などが必要になることがあります。

だから、

病気がありそうな可能性が高くなったときには、検査を受ける意味も大きくなる。

僕自身も、患者さんにはその必要性と検査の負担・リスクを説明したうえで、必要な方には受けてもらうよう勧めています。

今の自分については、その必要性がまだ高くないと判断している。

ただ、それだけです。

妻には言われていました

最後に、家の話を少し。

妻からは以前、

「一度くらい大腸カメラ受けたら?」

と言われていました。

まあ、そう思いますよね笑

僕は普段大腸カメラをしていて、大腸がんの患者さんも診ています。

家族からすると、

「じゃあ自分も一回見てもらえばいいのに」

と思うのは自然な気がします。

僕は、

「40歳になったら便潜血は毎年受けるつもりだよ」

と伝えました。

それ以降、最近はあまり言われなくなりました笑

大腸がんは、日本でとても多いがんです。

2023年の全国がん登録では、男女を合わせた罹患数で最も多いがんでした。

そう考えると、一度受けて、

「大丈夫だったよ」

と妻に言うことにも意味はあるのかもしれません。

それは、病気を見つけるという医学的な利益とは少し違います。

家族が安心するという価値です。

そういうものまで含めると、

「検査を受ける意味」は、医学的な推奨だけでは決まらないのだろうと思います。

とはいえ、今の僕は、一般的に推奨されている方法を基本にしていくつもりです。

そして大腸カメラが必要になったとして、

どこで受けるか。

今のところ、まだ決まっていません笑

それではまた。

※この記事は、症状のない人が大腸がん検診をどう考えるかについての一般的な情報と、僕自身の判断を書いたものです。症状、家族歴、既往歴、健診結果などによって必要な検査は異なります。気になる症状がある方や、便潜血検査などで精密検査を勧められた方は、検診の開始年齢を待たず医療機関にご相談ください。

ぽん

消化器内科医。内視鏡を握る傍ら、時間と自由の設計を考え続けている。

急性期病院を経て、現在は関西のクリニックで内視鏡診療に従事。日本内科学会認定内科医、日本消化器病学会専門医、日本消化器内視鏡学会専門医。

ロードスターで走り、LUMIXで記録し、サウナで整える。2026年、父になった。FIRE・資産形成・AI活用を探求中。

白衣の内側から見えるリアルを、等身大で書いていく。

→ もう少し詳しいプロフィールはこちら

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